■新作■




 大きな窓が南側に並び、正午過ぎの明るい日差しが燦々と食堂内に降り注ぐ。外の空気は刺すようだが、暖められて風のない部屋の中は春のようだ。
「ふはー、寒かった」
 今日の冷え込みは特にひどい。この冬一番の寒さではないだろうか。おかげで会議室の暖炉も役目をほとんど果たさず、ただでさえ広く暖まりにくい会議室がさらに冷蔵庫化した。
 昼の会議を終えたゼシルは一人で食堂に来ていた。大臣達は談話室の暖炉に群がりに行ってしまった。食堂の方が何倍も暖かいのに彼らはそれを知らない。寒い中延々と無意味な自慢話に花を咲かせて自分を早く解放しなかった罰だざまあみろ。
 誰かしら温かい飲み物を求めて来ているかとも思っていたのだが(特にフィル辺り)、食堂は本当に人っ子一人いなかった。厨房の方も静かで、さすがに無人というわけではないだろうが珍しく落ち着いた雰囲気で満たされていた(普段は大食いだの早食いだの食に関する壮絶な戦いが繰り広げられている)。不思議に思いながらも奥に進み、一番窓際のカウンター席に座った。セルフサービスで茶を淹れるためのポットとカップを手元に引き寄せる。
 かたんという小さな音がして、カウンターの向こうの勝手口が開いた。
 長身の藍色頭がのそりと入ってくる。白いコック服姿が良く似合う。
 こぽこぽと平和な音を立てつつ彼の方を見やった。ゼシルの存在に気付いているのかいないのか、ウィグナーはそのまま無言で流し台に行って手を洗い始めた。ゴミでも置いてきたのだろうか。
 そんなに存在感ないかなぁ自分と心配になって、試しに「ウィグナー」声を掛けたら思いの他すぐに反応してくれた。
「ああ、王。……いたのか」やはり気付いていなかったらしい。
 多少のショックを押し殺して何していたのか問うと、白いタオルで手を拭きながらこちらに歩いてきて厨房側からカウンターに寄り掛かり、
「別に」
 飽くまでも端的に答える。思わず苦笑いが浮かんだ。
 まあいつものことだ。何となく不機嫌なのは食堂が彼にとって少しばかり暑いせいだろう。 冬の属性からしてみれば、今日は室内よりも外で冷たい北風に吹かれていた方が心地良いのかもしれない。
 そんなことを考えていたら「……王」ウィグナーがいつの間にか一品の料理を持って来ていた。白いシンプルな深皿に盛られたスープだった。澄んだ金色の真ん中に緑のパセリが散られ、それを取り囲むようにしてクリーム色のソースが円を描いている。
「何これ」
 おいしそうだがいきなり説明なしに出されても困る。困惑しながらウィグナーを仰いだ。
「新作、だ」
「しんさく?」
「この前市場に行ったら良さそうな素材を見つけたからそれ使って作ってみた。味見、頼めるか」
「もちろん」
 一つ頷く。手渡されたスプーンを握り締め、その金色をそっと掬った。
 口に運ぶ。
「……どうだ」
 無言で味を確かめこくんと飲み込んで顔を上げた。期待の中に若干の不安が混ざった表情を浮かべているウィグナーと目が合う。



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