■新作■ 2 「おいしいんだけど」 「だけど?」 舌の上に残る味を注意深く見直して、「ちょっと……自分にはしょっぱいかも」と言った。 「しょっぱい……」 「うん。あ、でも自分は薄味が結構好みだからさ。濃口が好きな人にはちょうど良いのかもしれないよ」 「なるほど」 料理長は腕を組み小さく唸った。材料の中に何かマズイものでもあったかなどと一人でぶつぶつ言っている。 ――ちょっと待て。 「ウィグナー。このスープの中、何入れた?」 静かにスプーンをカウンターに置いた。冷や汗が浮かぶ。そもそも市場で見つけた"良さそうな素材"って一体何だ。 「王には言ってもわからないだろう? 専門用語満載だぞ」 「ますます怪しいわっ」呆れ顔でさり気ない溜め息とか。裏があるに違いない。 そこまで言うなら……と、ようやくウィグナーが口を開いた。ポケットに手を突っ込み白い紙を取り出す。長い長い領収書だった。また会計係が泣くのだろう。 わざとらしい咳払いの後、ウィグナーは領収書の内容をぼそぼそと読み上げ始めた。 「カンザラダラスの腿肉、トサムの爪、マイターシュガー、エンカイエンカイ――」 「待った"エンカイエンカイ"ってどう書く?」 「塩に海に塩に塊」 「はぁ。……続くなら続けて」 「アラハムルトの頭、タソリアの目、クルミニスタの血、パセリ、生クリーム」 「だんだん黒魔法の儀式で使うような感じになってきたね」 「パセリや生クリームを儀式で使うのか。なかなか平和な魔術だな」 「や……まあいいや。で、他には」 「後は胡椒と黒胡麻。以上」 知らない名前が頭の中を飛び交っていた。周囲の国々との貿易が盛んなのは結構なことだが、一国の王として輸出入品目の把握はしておいた方が良いのかもしれない。 「今言ったの全部このスープに入れたの?」 「そんなことはない。確かにダシ取りのためにいろいろ使ったが、さすがにクルミニスタの血はスープが濁るからな。あと、黒胡麻や胡椒はなくなったから買い足したものだ」ということは何とかの目はスープに入っていたのか。 こめかみの辺りを指で押さえて頭痛を堪え、具体的に想像しないようにした。 聞かない方が良かったかもしれない。料理なんて最終的においしければ何だって良いのだ。どう調理されていようが何が使われていようが胃に入ってしまえば全て同じ。気になるのは見た目と味と歯触りだけだから、この時に違和感だの嫌悪感だのを感じず幸せな気分になれればそれで良し(珍味使用の料理において空腹を満たすという本来の目的は二の次だ。そんなの美味しい物を食べずともある程度やり過ごすことはできる)。 とにかく、"目"の味はしなかったのだから(どんな味かは知る由もないが)問題なし。 課題はしょっぱさをどうするかだ。新作の試食をした者として料理完成の所まで付き合うのが筋かと思う。ついでに食材についてウィグナーからいろいろ情報を入手しておこう。大臣とかに報告したら泣いて喜びそうだ。ああゼシル王自主的にそのようなことをお調べになられるだなんて天変地異の前触れですかとか言って。余計なお世話だ。 |