■かくれんぼ■ 2 「じゃあゲームしよう、ゼシルちゃん」 「ゲーム?」 唐突な申し出に意味がよくわからず、ゼシルは茶を淹れたカップを持ち上げたところで固まった。 「うん。かくれんぼ。罰ゲームつきのやつ。負けたら勝った方の言うこと聞かなきゃいけないの」 「はあ」やはり雲行きが怪しくなってきた。 「この場合は……そうだね、私が勝ったらゼシルちゃんはドレス着て、ゼシルちゃんが勝ったら私は諦める、と」 「ふーん」 「よっし! 我ながらグッドアイディアだわ。早速始めるよ!」 「んごふっ」 適当に聞き流していたところを突然スタート宣言されてしまい思わず茶を噴き出しかけた。ぎりぎりで耐えてどうにか飲み込んで事無きを得た。そんなゼシルにはお構いなしに、スピリアが立ち上がって急かす。 「鬼は私ね。日没までに見つけられたら私の勝ち。見つけられなかったらゼシルちゃんの勝ち」 「ちょっと待っ――」 「範囲は城内限定で、五分経ったら探しに行くからねっ! じゃあいくよ? よーい、スタート!」 王よりも側近の方が力を持つこの状況って結構いけないんじゃないかとふと思った。 まあ見つからなければ毎月恒例のファッションショーは阻止できるわけだ。ため息をつきつつもゼシルは茶をぐいと飲み干して部屋を出た。肩越しにスピリアを見やると、少女は嬉々としてゼシルのソファにダイブしていた。あそこで300秒数えるつもりなのだろう。 とにかく、何としてでも勝たねば。 深い赤茶のドアを引いて外に出ると、 「お出掛けですか」 ドアのすぐ横に寄り掛かって警備をしていたサリタが声を掛けてきた。完全無敵な隠れ場所を思案しながら手短に言葉を返す。 「うん。スピリアとかくれんぼすることになった。部屋の見張りはもういいよ」 「精神集中のための"札積みの儀"とやらは終わったんですか」 トランプピラミッドのことだ。遊ぶから見張れと直球で言うのはさすがに気が引けたので、適当にそれっぽい名前をつけてみたのだが、改めて他人の口から聞くと自分のネーミングセンスのなさに少し切なくなった。 「終わらされた」 原因はサリタにもあるため、そう思わずとも少し声色が低くなった。気づいているのかいないのか、彼はきょとんとした顔で「はあそうですか」と言った。 「えっと、俺はどうしたら良いのでしょう」 「んー、範囲は城内限定だから危ないことないと思うけど。ってことで、鍛錬とか何かしてて良いよ。日没まで近衛兵は休憩時間。まあ暇ならさり気なくスピリアの後について行って、彼女の捜索活動中に荒らされたところ直すと良いんじゃない? じゃあまたね」 「はあ」 いまいちな顔の彼を残して王は走り出した。とりあえず屋上の倉庫の中にでも隠れようと思った。 |