■見合い話V■


11


 静かに決心を固めて「クリル様、今はゼシル様とのお見合いの真っ最ちゅ」「お待たせー」
 サリタの一代決心を中途半端にぶち壊してゼシルが応接間に帰ってきた。言い切れなかった言葉を飲み込み溜め息をつく。
 ゼシルは何でサリタがここにいるのだろうとでも言いたげな顔で首を傾げた。ワインの瓶を隠しもせずにテーブルの上に乗せたままクリルがにぱと笑って、
「このお兄ちゃんね、僕が暇だとかわいそうだからって話し相手してくれてたんだ。良い人だよね」
「あ、そうだったんだ。気が利くねサリタ。ありがと」
「い、いえどういたしまして……」自発的にやったことではないため多少の後ろめたさを感じつつも頭を下げておく。説明が面倒臭いし、何よりもクリルが余計なことは言うんじゃねえみたいな目で見てくるのが怖い。下手な賊よりよほど怖い。
「そうそう。お兄ちゃんね、僕にブドウジュース出してくれたんだ。ゼシルちゃんも一緒に飲も?」
「ぶどうじゅーす?」
 ゼシルは訝しげに呟いて瓶を見やった。
 明らかにワインの瓶にしか見えないものをジュースと言うとは。そんなのにゼシルが騙されるとでも思ったか。……いや、お子ちゃまが紫色の液体の入ったコップを持ち上げて全く普通の顔でいたら騙されるだろうか。
「ゼシル様、そ」
 それはワインです。未成年は飲んじゃ駄目です。そう言おうとしてクリルに睨まれて口ごもった。サリタを睨みつつもゼシルには愛嬌を振りまくという高等技術を用いながらゼシルのコップにブドウジュースもといワインを注いでいる。
 こうなったら自力で気付いてもらうしかない。匂いで嫌でも分かるはずだ。いくらなんでもそのくらいは――。「そう。なんだ、今日はやけに気配り良いね。サリタ、小さい子好きだったんだ?」
 まあサリタなら分からなくもないけどねーなどと笑いながらゼシルがコップに口をつけた。そのままワインをぐいと飲む。
「ぜし……っ!」
「どーお? すごくおいしいよね。さすがゼシルちゃんの国のだねえ」嘘吐くなお前が国から持って来て隠してたのだろがと内心で呟いておいた。
 にぱにぱ笑顔を振りまいてクリルはさらにワインの杯を重ねる。ゼシルはというと最初の一口以来ずっと固まったまま動かなかった。
 嫌な予感がした。
「ゼシル様……?」



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