■見合い話T■ 3 話し合いに区切りがついたらしく、参加者がぱらぱらと席を立つ。大臣らが満面の(ある意味気色悪い)笑みを以てしてゼシルに頭を下げ会議室を出ていった。壁の時計はすでに正午を指しており、食事を含む昼休みを挟んで一時半からまた会議は再開されるらしい。面倒だし自分がいようといまいと関係なく話は進むし、ゼシルは午後の部は部屋に引き籠もってやろうかと真面目に考えていた。 春と夏と冬の面々もゼシルの近くにやってきてフィルと一緒になって王を囲む。 「三日間もゼシルちゃんの服選べるなんて幸せっ」 スピリアが神か何かに感謝するように指を組み合わせて目を閉じた。こちらとしては三日間もスピリアの着せ替え人形になるなんて災難も良いところだ。彼女が選ぶならやはりドレスの類いなのだろうし、やはり可愛らしさ重視のものなのだろうし、とにかくゼシルにとってはあまり楽しくない。そもそもお見合いをしても受け入れるつもりはないから、飾り立てるのは間違いなく無駄と言える。下手にその気にさせて(その気になっているからこそフィルの言いなりなのだろうが)しつこく付き纏ってきたらどうしてくれるのだまったく。まあ自分が相手に極力嫌われるよう振る舞えば解決か。 ああ面倒臭い。 「妙な輩が紛れ込むことのないよう、全力で職務を務めさせてもらいます、ゼシル様」 目を輝かせてサリタが意気込む。久しぶりに近衛兵らしい近衛兵ができて嬉しいのだろう。どうせお見合いの邪魔にならない程度に離れた場所での護衛となるのだが(ゼシルとしては邪魔して欲しい心境だ)、それでも他国の者が城の敷地内にいる中で王の護衛をするのは名誉あることなのだ(たぶん)。日頃からサリタはゼシルの側にいて守ってくれてはいるが、それとこれとでは話が別だ。場内に漂う雰囲気が全く異なるから。 案外サリタは誰でも良いから妙な輩に侵入してきて欲しいと思っているのかもしれなかった。この城は平和過ぎる。毎日こっそりやっている(らしい。本人の認識上では)鍛練の成果をどこかで発揮したい気持ちが少なからずあると思う。それはゼシルや同僚達との手合わせで発散できるものでは決してない。それくらい彼は強い。近衛隊長ならば何とかならないでもないが、サリタは"頼りがいのある間抜けな獣"なので隊長相手では心の底から戦うことはできないだろう。自分自身に正直なんだかそうでないんだかわかりにくい男だ。 スピリアとサリタが背後に炎を被って三日間のことに熱くなっている間で、一人ウィグナーだけは少し浮かない顔をしていた。お見合いをあまり喜んでいないのだろうか、もしかしたら自分と同様な考えなのだろうかと僅かな希望を見出だして「ウィグナー、どうした?」尋ねたら、 「ああ……」 ますます眉間に皺を寄せた。さり気なくゼシルの耳元に口を近付け、周囲のざわめきに紛れてしまいそうな声で言う。 「……厨房裏の猫達が他国から来る兵らの玩具にされないか心配だ」 「へえ……」残念ながら悩みのベクトルの向きが違った。 |