■見合い話T■ 4 昼食を取りに食堂へ行く途中、使用人達の好奇というか興味というかの視線が痛かった。 逃げ込むようにして入った食堂でも微笑みやひそひそ話が絶えない。うんざりしたゼシルは昼食をトレイに乗せて早々に食堂を出た。 「ゼシル様、ここで食べないんですか」 すたすたと歩くゼシルの後をサリタが慌てて追いかけてきた。振り向くと彼もトレイを持っていた。食堂まで一緒に来た他の三人の姿は見えない。ウィグナーは厨房に入ったのだろう。スピリアはケーキバイキングに我を忘れていたからゼシルについてくるはずもなく、フィルは大臣らに捕まって何か話していた。 よほど急いだのか、サリタの皿からスープが少し零れていた。無視してやることにして前に向き直り、再び歩調を早めた。 「部屋で食べる。あんなに注目されながら昼食とるとか嫌だ」 「みんな喜んでんじゃないですか、ゼシル様がやっと恋愛に興味を持ってくれたって。使用人の女の子達が言ってましたけど、すでに誰がゼシル様のハートを射止めるかで論議が展開されてるみたいですよ」 聞いて思わず足を止めた。「誰が恋愛に興味持ったって?」 「だからゼシル様が」 「冗談。自分は被害者だってば。本気で三日間行方くらまそうかな」 「そんなことしてもフィルには無駄だと思いますけど」 「……まあね」 溜め息と共に言葉を吐き出して、いつも通りの歩幅で歩き出す。今日という、少なくとも後の三日間よりは平穏な日を大事に過ごすことにした。具体的には昼食を食べてから地下牢に籠ってトランプピラミッドを日暮れまで。 自室のドアを開いた。サリタがいつものように扉の近くの壁にもたれて警備をしつつ食べようとしたので少し考えて彼の袖口を引っ張った。 不思議そうな顔がこちらに向けられる。 「話し相手よろしく」 一言そう言って部屋の中に入った。サリタは数秒間ぽかんとしてから、わたわたとついてきた。 「サリタに愚痴と文句全部言ってから地下牢行く。ちなみに話した内容は言外禁止。特にフィル」 ミニテーブルの上へトレイを置き、床に直に座り込んで早速パンを手に取った。向かい側にサリタが座る。苦笑いが浮かんでいた。「よっぽど嫌なんですねぇ……」 「嫌。だいたい自分の許可なしだよ許可なしっ。主催者の楽しみなんて知るかって話。何でこう――」 「はあ……」 喋り出したら止まらなくて、三時過ぎになって痺れを切らしたウィグナーが無言で怒りながら皿返せと部屋に乗り込んで来るまで延々と話し続けついでにウィグナーも巻き込んでサリタの隣に座らせてまた喋って、結局日が暮れた。 |