■見合い話U■ 6 「ね、どう思う? 今日のお見合い相手!」 「どうと言われても」 南庭園の植木の陰からこそこそと温室を観察する者が二人。極力目立たないようにと傘ではなく雨合羽を着用していた。 スピリアとウィグナーだ。 「ずるいよね、サリタちゃんもフィルちゃんも声聞ける位置にいて。私らは全っ然聞けないのに」 「服選びしか仕事ないから、スピリアは」 「ウィグナーだってそうじゃない。料理並べたらお仕事おしまいでしょ」 「いや、まだ一つ仕事がある。しかし俺は別にあの王に興味はないから」 「何それつまんなーい。やっぱ私だけじゃない、ゼシルちゃんのお見合い相手と直に対面できないのっ……あ、顔見えた!」 立ち上がりかけたところを慌てたウィグナーに押さえ込まれた。何よもうと頬を膨らめるが、ゼシルにならともかく、リークにバレると確かに後々面倒そうだ。何にせよ覗き見は良くない。 分かっていても止められない。止められないならやるしかない。 肩を押さえられたスピリアはおとなしくまたしゃがみ込み、しかし心持ち首を伸ばして観察を続けた。リークが手を広げて何か言い、それに対してゼシルは微動だにしない。何を言ったんだろう。 「ちなみに今日のランチは何にしたの、ウィグナー」 「フルデラニアから輸入された魚介類を使用したシーフードクリームシチューとか、簡単にサンドイッチとか。この国の産物も取り入れたが、基本的にはあっち寄りの料理にしておいた」 相手の好き嫌いが良く分からないからと付け足して、ついでに王の苦手な物も入れたと言った。 ぱっと表情を明るくしてウィグナーの背中をばしばし叩いた。 「あれよね、ゼシルちゃんが食べるの渋ってんの見て『ゼシルさん、どうしたんだい? 僕が代わりに食べてあげよう』『きゃあぁん、リーク様、トマトが食べられるだなんて素敵!』という会話が繰り広げられ」「ないだろう、間違いなく」 ずっぱりとセリフを切られた。握り拳になってまでしての力説だったのにどこまでもノリの悪い奴だ。いじけてやる。 さすがに泥化した地面に"の"の字を連ねることは憚られたためとりあえずぷいとそっぽを向いてやった。大したダメージは与えられなかったようで、向き直ってみるとウィグナーは黙って雨の降る様を見つめていた。 「……風邪ひかないだろうか」 「猫?」漏らした独り言に間髪入れずに言うと、ほんの少し俯いて何でもないと答えた。 だが、隠したって無駄なのだ。スピリアは知っている。彼が厨房の裏で猫たちの世話をしていることも、雨の日にはいつも開いた傘を地面に置いて猫たちに屋根を作ってやっていることも。 この心配性。内心で 呟いてから、まあそこが良いところなんだけどねと舌を出した。 |