■とある一大事件の話V■ 6 「ぁぐ……」 見るも無残な姿に変えられつつある城の廊下を突っ走る途中、サーベル片手に進路を塞ぐ黒布の男を邪険に切り伏せて、捨て置こうと振り向いたところで考え直して男の元に戻った。 胸から腹にかけてを血塗れにした男の襟首を無遠慮に掴み上げる。意識を失いかけていたらしい男が激痛に目を覚ます。 「答えろ」 抑揚もなく問う。 「ゼシル様はどこだ」 「へ……、俺が答えるとで」 「三度目はない」ふざけた態度には問答無用で喉元に剣の切っ先を突き付ける。 男がひっと息を呑んだ。 「ゼシル様はどこだ」 無意味に口を開閉させた後、男は絞り出すような声で「……ろうに」と言った。 ろうに……牢に? 血に滑った襟首が手から抜け落ち、男は床に崩れた。いちいち気にかけることはせず踵を返して走り出す。 地下牢なんかに我らが国王を閉じ込めやがってと言いたいところだが、日頃から自ら地下牢に隠れて大臣たちの目を掻い潜っているゼシルを知るサリタにはとても言えたセリフではなかった。 しかし、 「きっとミシェアも一緒なんだ」悪い予感がする。外れる気がしない。こういう嫌な予感は外れたことがない。 三階から一気に駆け降りて一階の廊下を走り抜ける。二つ目の角を右に折れてすぐの鉄の扉を、体ごとぶつけるようにしてぶち開けた。 「ゼシル様!」 入口に座り込んで談笑していた黒布が、こちらに気付いて立ち上がる前に斬り伏せる。上がる血飛沫もそのままに、数段の石の階段を飛び下りて、ひんやりとした冷たい通路を足早に進む。 「その声は、サリスメイト殿でありますかっ」 聞き慣れた声が奥から飛んできた。看守の――。 「ゼシル様は」 「先程から全く動いてくれなくてっ」 「あの偽女王、オレらの王さんに何しやがっ」「ミシェアが」 やっぱり。 無駄に長く暗い通路の先が、明るくなる。牢の壁に開けられた鉄格子越しの外の光だ。 近付くにつれて濃くなる血のにおい。 「ぜしる――」 |